置賜のとんとむかし 『語り継がれる民話』 民話とは、どこにでもある、むかぁ〜しから語り継がれているおはなしのこと。日本全国同じような話が語られていたり、固有のものがあったりするようです。 置賜地域にはたくさんの地域独特の民話が語られています。何話くらい?という疑問が起こりますが、それを数えることは難しいといいます。置賜各地区に10〜30程度の話が伝わっており、全体では、よく語られているものだけで100話以上は確実にあるのではないかと思われます。すでに忘れられてしまった話もあるかも知れません。 民話はいつから語られるようになったのでしょうか? はっきりとした起源はわかりませんが、江戸時代から昭和30年代頃まではじいちゃんばあちゃんが孫に語る、民話語りの習慣があったといいます。昔は、働き盛りの親は昼の畑仕事に加えて、夜もいろりで仕事をしていたことから、子どもたちを寝かしつけるのはじいちゃんばあちゃんの役目でした。子どもが寝るまで、添い寝をして昔話を聴かせていました。しかし、昔話の面白さのせいで、子どもはもっと話を聴きたいとばあちゃんにせがみます。するとばあちゃんはなるべく長い話をし、聴いているうちに子どもはすやすやと寝てしまう、昔はこんな風景がありました。 現在のように各家庭で民話を語る習慣がなくなってしまった原因としては、テレビの登場や、核家族が増えたことなどが考えられます。絵本やマンガなど、いろいろなものが手に入るようになったことも、大きな原因のひとつではないでしょうか。 「とーびんと」という言葉をきいたことがありますか? これは民話の最後に必ず使われる言葉、結びの句です。ところによっては「どろびん」など、少し違った表現で使われることもあるそうです。 結びの句という言葉からなんとなくわかるかも知れませんが、「とーびんと」の意味はひとつの話が「おわったよ」と、聴いている人たちに伝えるものなのだそうです。漢字で書くと“頭尾んと”と書いて、最初から最後までの意味という説もあります。 もうひとつ紹介すると、世界一長い結びの句と言われているものがあります。なんとそれが、置賜地域で語られているものなのです! 「とーびんさんすけ猿まなぐ、猿のまなぐに毛がはえて、けんけん毛抜きで抜いたれば、まんまん真っ赤な血ができて、めんめんめっこになりましたっけど」 どうですか? お話のあとにまた小話を聴いたような二重の楽しみがありますね。“まなぐ”というのは“目”のことです。目に毛が生えるなんて……。 このように昔から、子どもたちに語り聞かせていた民話ですが。語り部の方たちにうかがうと、現代の子どもたちも民話が大好きなんだということを聞きました。面白くて笑える民話も、おっかない化け物の話もすごく興味を持って聴くのだそうです。子どもの心には“うそだが ほんとだが わがんねはなし”を素直に楽しめる柔軟な感受性があるのでしょうね。 ここからは、置賜の代表的な民話語りの会を紹介します。 民話伝承を支える 『民話会ゆうづる』
南陽市漆山(うるしやま)には「夕鶴の里資料館、語り部の館」があり、ここで民話の口演を行っている「民話会ゆうづる」をご紹介します。 この会は、南陽市に伝わる「鶴の恩返し」「白竜湖の伝説」などたくさんの民話を語り伝えようと平成3年、地元住民が語り部となって活動をスタートさせたものです。 設立当初、南陽市の民話を知っている人はあまりいない状態で、まずは語り部の育成から始まったそうです。当初の会員は15名。民話のレパートリーが少ないことから、置賜民話研究の第一人者、武田正(たけだただし)さんに指導を仰ぎ、南陽市の民話を教えてもらってきました。 現在の会員は15名(男性1名、女性14名)。夕鶴の里で毎日民話口演を行っており、老人ホームや幼稚園等の施設にも出張して活動しています。 設立当初からの会員である山路愛子(やまじあいこ)さんに話を聞きました。 山路さんは民話会設立の前から民話に興味があって自分で勉強をしていたそうです。その経緯もあって、現在は民話会で活躍。山路さんのすごいところは民話のレパートリーが100話を超えること。保育の仕事をしていた山路さんは、子どもたちにいろんな話を聴かせたいと思って取り組んだら自然と覚えていったと話してくれました。 民話会副会長の島貫貞子(しまぬきていこ)さんは、民話の中には子どもたちに伝える“教え”がたくさんあるといいます。「悪いことすっと山姥に連れていかれる」や「だれの言うことでも、ちゃんと聞かんなね」などは、皆さんも民話でなくてもよく聞かされたのではないでしょうか。 「民話を語るのは“人を楽しませるため。”そんなの決まってだべした」と笑顔で話してくれました。
語りを初めて6年になる戸田節子(とだせつこ)さん。もうベテランの語り部さんかと思うと「まだまだ先輩たちにはかなわない」とのこと。やっと人前で話すことに慣れてきたところだと話してくれました。 始めたころは、緊張から頭の中が真っ白になってしまうこともあった、5年目になってやっと自分の語りを振り返って反省できるようになった、そして6年目の現在、聴いてくれた人に「よかった、感動した」と言ってもらえるようになったと自分の成長を話してくれました。戸田さんは優しい口調で民話語りをしてくれます。聴いている人はとても癒されるのでしょうね。 会のみなさんにとって語りは生きがいといえるもののようです。民話は自分が楽しめるもの、聴く人を楽しませるものですが、それだけではなく地域に住む人々の心を次の世代につないでいく橋渡しをしていくものなのだと感じました。 民話会ゆうづるの皆さんは、南陽市だけではなく全国の民話イベントにも参加して日々活動しています。 《民話その2〜語り継がれてきたもの〜 につづ》 ○掲載日 平成22年12月 ○執筆者 鈴木真紀(置賜文化フォーラム事務局) ○取材協力 置賜語り部の会 民話会ゆうづる(南陽市) まほろば語り部の会(高畠町) 鮎貝語り部クラブ(白鷹町) とんと昔の会(米沢市) 印刷用PDFはこちら |
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