“巨”シリーズ―巨木編―




 吾妻連峰や飯豊連峰と周囲を山々に囲まれた置賜地域。そんな自然豊かな置賜地方には、地域を見守り続けてきた巨木や長年の風雪に耐えてきた巨石がひっそりと残っています。
 仕事や家庭でパソコンや携帯電話などを使い、下を向きがちな今だからこそ、私たちの身近にある巨木、巨石を見上げてみませんか。
 “巨”シリーズ第一弾は、置賜に根を張り、年輪を刻んできた「巨木」をご紹介します。季節を告げる巨木、思い出の巨木、伝説の巨木など、地域住民が抱く巨木への思いは様々です。自然の力強さに触れ、リフレッシュしてみましょう。

万歳(ばんざい)の松 〜米沢市〜

明治天皇の御巡幸の地に植樹された万歳の松


 米沢市万世(ばんせい)町桑山(くわやま)地内、旧万世小学校跡地にあるのが「万歳の松」です。
 米沢市では2010(平成22)年以降、良好な景観形成を目的に、歴史や文化を持ち、地域に親しまれている樹木を景観重要樹木として認定しており、「万歳の松」はその第1号でした。
 万世大路(ばんせいたいろ)・万歳の松保存会事務局長の二瓶憲雄(にへいのりお)さんによると、同所は1881(明治14)年に明治天皇が東北御巡幸の際に小憩された場所で、1889(明治22)年の市町村制実施に伴い、地元の有志がマツ一株を記念植樹したそうです。
 名前の由来は定かではありませんが、1895(明治28)年に万歳の松の根元に建立された駐輦之碑(ちゅうれんのひ)に、外国事務総督や神奈川県知事を務めた東久世通禧(ひがしくぜみちとき)の句の題名として「萬歳の松」が揮毫されており、植栽初期からこの名称で親しまれていたと思われます。
 樹種は赤マツで、根回り4.5m、高さ13m、胸高幹周り2.7m。四方20mにわたって伸びる枝は、今も青々とした葉をつけています。
 旧万世小学校時代には、入学式の記念撮影が万歳の松の前で行われたり、地区の運動会が開かれたりしたそうで、卒業生の胸に深く刻みこまれた思い出の木です。1991(平成3)年には万世地区住民で構成する保存会が発足し、万歳の松は地区のシンボルとして大切に守られています。国道13号を通るとき、車窓からその立派な枝振りに目を向けてみてください。

熊野大社(くまのたいしゃ)の大銀杏 〜南陽市〜


南陽市宮内地区のシンボルの大銀杏

 南陽市宮内の熊野大社を目指して、きれいに整備された石畳を歩いていくと、「熊野大社の大銀杏」が見えてきます。天高く枝を伸ばすこの大銀杏は宮内地区の象徴です。
 南陽市史によると、同所の大銀杏は平安時代の武将・源義家(みなもとのよしいえ)が家臣の鎌倉権五郎景政(かまくらごんごろうかげまさ)に植えさせたという伝説が残っているそうです。
 根回り7.7m、高さ約30mと、イチョウとしては県内でも有数の巨木で、1956(昭和31)年に山形県の文化財(天然記念物)に指定されました。
 はっきりとした樹齢はわかりませんが、数百年は経つのではないかと推察され、秋になると緑の葉から黄色の葉に衣替えします。
 その大きさからか、近くのイチョウと比べるとやや遅れて色づき、この大銀杏の葉が全て落ちると、雪が降るという話もあるそうです。
 熊野大社には、大銀杏のほかにも、拝殿に施された彫刻細工をはじめ、二宮神社や三宮神社など歴史的に貴重な文化財が数多く残っています。巨木と一緒に熊野大社の歴史に触れてみてください。

 妹背(いもせ)の松 〜南陽市〜

2本のマツが寄り添うように並び立つ妹背の松


 赤マツがまるで寄り添うように並び立つ南陽市宮内の「妹背の松」。2本のマツが連結しているのが特徴的で、その姿から相生(あいおい、一つの根元から二つに分かれて育つことなどの意)の松とも呼ばれています。夫婦や恋人同士でそろって見に訪れると縁起が良さそうですね。
 また、双松(そうしょう)公園北西に並び立っており、同公園名の由来と少なからず関係があるのではないでしょうか。
 南陽市史、同市教育委員会によると、まっすぐ伸びている松の高さは約15m。もう一方のマツはお辞儀をするように、途中から地面に向かって枝を伸ばしています。四方に伸びる枝を支えるように6本の支柱がすえられ、妹背の松を大切に守っています。
 地元宮内地区の有志で組織する双松まちづくり推進協議会は、地域づくりの一環として、妹背の松や先に紹介した熊野大社の大銀杏などを宮内六名木に選定しました。
 ほかには、餅杉(もちすぎ)と二本杉(にほんすぎ)、眺陽桜(ちょうようさくら)、慶海桜(けいかいさくら)が六名木として選定されており、眺陽桜と慶海桜については六名木選定にあたって新たに命名されたそうです。
 双松公園は丘陵地帯にある公園で、夏には香りたつバラまつり、秋には歴史絵巻を再現する菊祭りが開かれ、県内外の観光客でにぎわう置賜有数の観光地となっています。

千年松 〜高畠町〜

慈覚大師お手植えと伝えられる千年松

 安久津八幡(あくつはちまん)神社=高畠町安久津=の境内東側にある「千年松」。高さは3mほどで、ほかの巨木と比較すると高さはありませんが、木柱に支えられ、地面を這うように四方に広がる枝ぶりから、案内看板には「巨龍の休むが如く」と形容されています。
 樹齢は定かではありませんが、一戸芳樹(いちのへよしき)宮司によると、八幡神社の前身となる金蔵院(こんぞういん)の開祖の慈覚大師(じかくだいし)が、860(貞観2)年にお手植えしたと伝えられているそうです。
 1979(昭和54)年8月に高畠町の天然記念物に指定され、地元の安久津八幡神社文化財保護会が毎年雪囲いを施したり、周辺の草刈を行ったりと保存活動に汗を流しています。
 置賜地域で広がる松枯れ被害を心配し、5年ほど前から千年松の実生(みしょう)を育て、2010(平成22)年秋に1mほどに育った苗木を境内に植樹しているそうです。青々と生い茂った千年松の2代目が境内を囲む日も近いですね。
 千年松のすぐ前には高畠町郷土資料館があるので、一緒に高畠町の文化にも理解を深めてはいかがでしょうか。

遍照寺(へんじょうじ)の大銀杏 〜長井市〜


秋になると、辺り一帯を金色
に染める遍照寺の大銀杏

 金剛山遍照寺(こんごうさんへんじょうじ)=長井市横町=の境内東側に根を下ろしている大銀杏は、高さ27m、根回り10.7m、樹齢600年の古木です。同寺中興の祖・宥日上人(そうにちしょうにん)がお手植えしたという言い伝えが残る由緒あるイチョウの木です。
 同寺によると、大銀杏は長井市指定の天然記念物で、2009(平成21)年6月には長井まちづくり基金の助成を受けて、大銀杏までの歩道や案内看板を整備したそうです。
 昭和初期の長井大火をまぬがれたこの大銀杏は、長年の風雪を耐え、秋を迎えると辺り一帯を黄金色に塗り替えます。ギンナンを拾いに訪れる近隣住民もおり、地域に親しまれている大銀杏です。
 境内には大銀杏だけでなく、モミジなど豊かな自然とともに、草木を慈しむ草木塔を見ることができます。
 このほか、山形県有形文化財の指定を受け、60年に一度ご開帳される秘仏の馬頭観音像や、ケヤキの柱6本に支えられている重厚な造りの山門などもあるので、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
 ちなみに、山門を見る角度には玉橋隆聖(たまはしりゅうせい)住職お薦めの角度があるといい、それは山門の屋根の反りが美しく見える斜め横からだとか。




細野 かぶと松 〜白鷹町〜

直江兼続と縁のあるかぶと松


 国道348号を白鷹町方面から山形市方面に北上する途中、大きなカーブをいくつか越え、白鷹トンネルの手前に「かぶと松」の看板があります。
 所在地は、白鷹町滝野字細野森の上。国道から小道に入りふと山々を見渡すと、名前の通りかぶとのような形の松の木を見つけることができます。近づいてみると、大きな幹と枝の広がりに圧倒されます。
 白鷹町教育委員会によると、高さ8.4m、幹囲は3.8m、枝張り直径は約14m。このかぶと松は笠松とも呼ばれており、同町の天然記念物に指定されています。
 かぶと松にまつわるいわれがいくつかあるそうです。
同町教委の話では、上杉藩主は代々白鷹山に登り、虚空蔵菩薩にお参りしたのだそうです。あるとき藩主がお参りから帰る途中、休憩した際右手に、かぶとを置いたような大樹を眺め「かぶと松」と賞賛したといいます。その後は、誰もが「かぶと松」の名で呼ぶようになったと伝えられています。
 もう一つは、1600(慶長5)年の奥羽の関が原と呼ばれる「長谷堂合戦」で、上杉軍退却の際、直江兼続がこの松の下で兜を置いて休んだといういわれが残っているそうです。


☆「巨石編」はこちら☆






 ○掲載日 平成23年3月

 ○執筆者 大竹茂美(置賜文化フォーラム事務局)
        鈴木真紀(置賜文化フォーラム事務局)

 ○取材協力 二瓶憲雄さん(万世大路・万歳の松保存会事務局長)
          北野達さん(熊野大社宮司)
          一戸芳樹さん(安久津八幡神社宮司)
          玉橋隆聖さん(遍照寺住職)
          南陽市教育委員会
          南陽市宮内公民館






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