61深山和紙


 
1 深山和紙の特徴と用途

1)特徴

 深山和紙は、特徴的な漉(す)きによって、他に類を見ない強靱さを持ちます。強靱でありながら、やわらかな風合いと温かさが最大の特徴です。深山和紙は、古くから伝えられた技法を頑なに守り、一切混じりけの無い楮(こうぞ)を材料とし、一枚一枚漉き上げる、純粋な手漉きの和紙です。

2)用途

 昔は、上杉藩の御用紙として使われていました。その強靱さと、風雨にさらせばさらすほどに白さを増す特徴から、その大半は障子紙など、生活に密着した形で使われて来ました。現在は、障子紙や壁紙、卒業証書や表彰状、版画や手芸材料、照明器具など、幅の広い使われ方をしています。

2 深山和紙について

1)その起源から現代まで

 深山に和紙漉きが伝わったのは、江戸時代初期、およそ四百年前の寛永年間と伝えられています。それから現代に至るまで、長く厳しい冬期間の農家の家内工業として代々受け継がれて来ました。深山集落は、昔から村全体が紙漉き農家でした。西洋紙の普及や経済的な理由から、昭和40年代には、そのほとんどが姿を消していきました。現在では、冬期間のみ紙漉きをしている農家が一軒と、白鷹町深山和紙センターが残るだけになってしまったのです。

2)深山和紙の技法

 材料となる楮の栽培から始まり、材料の仕立てと加工、そして漉きや乾燥に至るまで、昔からの技法を守っています。漉きの動きは独特で、紙を漉くための簀(す)を縦横に振る『十字漉き』が特徴です。楮の繊維が、縦・横・縦と織り重ねられた様に漉き上げられます。これが、深山和紙の強さを生み出しているのです。

3 深山和紙ができるまで(製作工程)


1)楮刈り

 晩秋、木の葉が落ちた時期に楮を根元から刈り取ります。刈り取られた楮は、束ねて加工場まで運ばれます。



2)楮きざみ

 楮を長さ80cmくらいに切りそろえ、釜の大きさに合わせて束ねる作業です。




  3)楮ふかし

 束ねた楮を釜の上に立て、大きな桶を被せて一釜あたり約2時間半かけて蒸します。蒸し上がった楮は、すぐに冷水を掛けて冷やします。この作業を一日4〜5回くり返します。






4)楮はぎ

 楮ふかしを終えた楮は、一本一本丁寧に皮を剥いでいきます。剥がされた皮の部分が加工されて和紙の原料になります。残った楮の芯(木質部)は、燃料として使われます。


5)黒皮干し

 楮はぎで剥いだものを黒皮(くろかわ)と呼びます。小さく束ねて一週間から十日ほど干して乾燥させる工程です。寒中に晒すことで黒皮は、凍結と融解を繰り返し、表皮を浮き上がらせながら次第に乾燥します。  


6)楮ひき

 乾燥した黒皮を水に漬けて戻します。やわらかくなったら、包丁などを使って、一本一本表皮を削り取っていきます。表皮が取り除かれた楮を白皮(しろかわ)と呼びます。この作業で取り除かれた皮と繊維を使って漉く和紙が「かす紙」と呼ばれ、趣のある和紙になります。





7)楮さらし

 白皮は束ねて雪に晒し、十日間ほど天日によって自然漂白されます。晒した白皮は、完全に乾燥させて保存します。夏場に使う楮も、この工程までは真冬に完了させておきます。


8)楮ゆすぎ

 乾燥させた白皮は、一回の紙漉き工程に合わせて、必要な量を水に浸して戻します。白皮に付着しているチリやホコリを洗い流す作業です。

9)楮ねり

 きれいにゆすがれた白皮は、灰やソーダ灰を溶かした大釜で、二時間半ほど煮てアクを抜きながらやわらかく仕上げでいきます。

10)生洗い

 楮ねりでやわらかくなった楮は、きれいな水で洗って、灰を洗い流します。その後、材料は水の中で一本一本探りながら、細かいゴミも見逃さないように取り除きます。



11)紙打ち

 生洗いが済んだ楮をやわらかくなるまでたたきます。やわらかくなった楮は、ビーター機を使って繊維を細かくします。








12)紙漉き

 紙打ちした材料を漉舟に入れて、均一になるように混ぜます。これを簀ですくい上げ、先ずは縦に簀を振ります。その上に2回目をすくい上げ、横・縦の順で振りを重ねていきます。この漉き方は「十字漉き」と呼ばれ、深山和紙の特徴です。






13)押しかけ

 漉き重ねられた和紙は、一日分を一緒に重ね、上から圧力を掛けてゆっくりと水分を抜いていきます。



14)紙つけ(乾燥)

 棒に巻き付けながら、一枚一枚を剥がし取り、板や乾燥機に貼り付け、乾燥します。二枚分を重ねて剥がし乾燥させたものを二層紙、三枚重ねて乾燥したものを三層紙と呼びます。紙の厚みは、このようにして出します。

4 深山和紙を使った製品のご紹介

 深山和紙は、非常に丈夫な和紙です。通常、紙では作ることが不可能なものも、深山和紙で製品となっています。いくつかをご紹介します。



 
        

〇掲載日   平成25年2月

○執筆者   高橋信博(白鷹町深山和紙センター) ○写真提供  白鷹町深山和紙センター           〒992−0776           山形県西置賜郡白鷹町大字深山2,527           電話番号 0238−85−3426 ○編集    東野真由美(置賜文化フォーラム)


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