1.森林セラピーとは しかし、医学的な実証研究が積極的に取り組まれるようになり、森林浴によって血圧や血糖値が低下する、自律神経のバランスが整えられるといった結果が報告されるようになってきました。 磐梯朝日国立公園に囲まれる小国町では、町土の大部分がブナを主体とする広葉樹林に覆われ、夏には樹幹にゆれる木漏れ日が白く輝き、冬には真っ白な雪が一面を覆う恵み豊かな森が広がっています。私たち小国町民はこのブナの森を“白い森”と名付け親しんできました。 森林セラピーとは、科学的に癒し効果を持つと実証された森林の中で森の動植物や地形などを利用して自律神経のバランスを取り戻し、元気な体をつくることです。 その効果は、末期ガンや糖尿病を完治させるといったような過度の期待を抱いてはいけませんが心身をリラックスさせて病気にならないような身体を作ろうという医学的観点において大変重要視されています。 また、森の中で五感を感じるということは、人それぞれの感じ方は違うと思いますが、森の風景や鳥のさえずり、樹木の香りや涼しいそよ風など体全体で感じ、自然と共に生きてきた人間本来の姿になるという事も考えられます。 2.森林セラピーと森林浴 森に入る際の服装は、日よけ用の帽子、長袖シャツ、長ズボンにトレッキングシューズを必ず履いてください。 森林セラピーにおける案内役“アテンダント”とは、セラピー利用者の世話や付き添いをする人の事で、利用者の安全を確保しながら、利用者自身がセラピー効果を得るためのきっかけ作りをするという役割があります。利用者自信がコースを設定し、オオバクロモジの香りを嗅いだり、小鳥のさえずりを聴いたりすることで自然を充分に感じて頂ければ、更に癒しの効果は高まります。 森林セラピーロードに入る前には、飯豊山荘で“グリーンチェック”をします。ここでは、血圧や脈拍などの測定(希望者)を行い森林セラピーがスタートします。温身平(ぬくみだいら)の入り口・ブナ林の辺りで深呼吸をし、更に進んだ“ヤチダモ”の大木を仰ぎ観ながら森の奥へと入っていきます。けもの道を進んだ後、『観音平』で休憩をとり、木に触れたり、小鳥のさえずり、森の香り、川のせせらぎを聴いたりすることで森全体を身体で感じていただけると思います。その先は、樹齢60年くらいの若いブナ林を観ながら『カモシカ沢』を通り、ミズナラの大木に触れながら『けもの歩道』分岐点よりメインロードに入って出発地点の飯豊山荘に戻ります。ここで再度グリーンチェックを行い、3時間コースの終了となります。 3.森林セラピー散策の時季 セラピーのオープンは4月1日からですが、この時期は残雪も多く飯豊山荘までの道路も通行止めとなっていますので、温身平森林セラピー基地に入れるのは、融雪除雪も終わり雪崩の危険性がなくなった5月中旬から6月初め頃になると思われます。 セラピー基地の散策の時季は、あくまでもセラピー利用者個人の好みのシーズンにはなりますが、残雪の中の淡いブナの新緑を楽しむことは心身ともに解放感に満ち溢れ、癒し効果がとても高く、私の一番のお薦めの季節です。また、秋の紅葉シーズンは紅く色づいた山がとても美しく、この季節もまた森林セラピーにはお薦めの時季といえます。しかし、それ以外の季節もそれぞれに森の楽しみ方があり、季節に応じた森の移り変わりを感じていただければ森林セラピーの効果もさらに高まるはずです。11月10日前後、降雪前には、セラピー基地までの道路が通行止めになりますので、シーズンの終わりとなります。 ◎森林セラピー体験◎ 今回私に、森林セラピーをご教授して下さったのが、森林セラピーアテンダントミーティング・会長の伊藤良一さんです。 伊藤会長と、小国町小玉川のマタギの館で待ち合わせをし、車で一路、飯豊山荘へと向かいました。到着後、森林セラピーを受ける際の注意事項などを教わりました。また、入山前には必ずグリーンチェックを行い通常時の自分の体の状態を確認し、そのうえで森林セラピーを受け、戻って来たら再度測定することで、より森林セラピーの効果を実感することが出来るとのことでした。 余談ですが、飯豊山荘は天然温泉、かけ流しの湯の飯豊温泉があります。飯豊温泉はその昔、熊が湯で傷を癒しているのをマタギが見つけ開湯したと言われている温泉だそうです。また、今回の東日本大震災の地震の影響で温泉の温度が2〜3度上がったのだそうです。 そんなお話を聞きながら、飯豊山荘を後にし、森林セラピーロードへと向かいました。暫らくして、道路左側に飯豊連峰登山届出所と、道路正面に一般車両通行止めの大きなゲートが現れました。登山届出書には登山者がどのルートで登るのかなどを入山前に届けるのだそうです。そして、ゲート脇には、温身平の案内看板があり森林セラピーロードのルートマップや飯豊連峰の保全の取り組みなどが写真付きで紹介されていました。
ルートマップを見ながら、伊藤会長に「今回はメインロードを中心に約2時間位の予定で回りたいと思います」と説明を受け、いざ森の中へと歩を進めました。歩き始めるとまず驚いたのが、整備された綺麗なメインロードでした。 凸凹な山道を想像していたのですが、砂利で敷き詰められた道は、平坦でとても歩きやすかったです。温身平は、全国の森林セラピー基地の中でも珍しく標高差が殆どない場所である為、ご年配の方やお子さんでも無理なく森林セラピーを楽しめるのだそうです。そして、更に森林セラピーを楽しみ易くする為に歩道整備が行われたのだそうです。 緑に囲まれながら、歩を進めていると「これがこの土地に多く原生していて、香りが体に良い影響を与えるんだよ」と葉っぱを採って見せてくれたのが“オオバクロモジ”です。付近のロッジや山荘などではオオバクロモジを煎じてお茶にして出している所もあるそうです。 メインロードを更に進むと、別れ道が現れ左の道には『けもの歩道』と書かれた看板がありました。今回はメインロードをそのまま進みました。少し先には『セラピーガイドコーナー』があり、温身平周辺に生息している植物の名前とイラストが描かれた看板や、温身平の森の癒し効果をグラフで表した看板などがあります。 この場所は、平成17年7月にこの森がもつ癒し効果を分析・実証する為の生理実験が行われた所でもあります。グラフは、新潟駅前と温身平とを比較した数値なんだそうです。グラフの数値を見てもこの場所が副交感神経(自律神経系の一部を構成する神経系)を刺激し、心身共に癒し効果があることが分かります。 また、伊藤会長が、一本のブナの木を指差して「何故、一本の木で白い部分と苔の生えた部分に分かれているか解るか」と聞かれました。私が何故か聞くと「ブナの木の6〜7m付近の苔がないのは冬場になるとその高さまで雪が積もり、上部は雪融けが早く雪が苔を剥がしてしまうんだ」と教えて頂きました。つまりこの周辺は、そんな高さまで雪が積もってしまうということに驚きました。 歩を進めると、道の脇に大きな木が倒れているのが目に入りました。伊藤会長の話によると、昨年切り倒したのだそうです。何度か樹勢回復などを試みたそうですが、効果がなく、空洞化が進んでこのままでは自然に倒れる危険もあり、切ることになったということでした。倒された木も、やがて土に還り、養分となることで、新たな生命へとバトンを渡していくのだと思いました。自然の循環の輪を感じられた一時でもありました。 暫らくすると川があり、橋を渡った先に少し拓けた場所が現れました。そこは四方をブナの木々に囲まれ、耳を澄ませば川のせせらぎが聞こえてくる空間でした。天気がよく、地面が乾いた状態の普段の森林セラピーでは、ここでシートを敷き5〜10分程寝ころんで森林浴をしてもらうのだそうです。 この後、雨足が強くなってきた為、戻ることになり、帰りは更に森の中を通る『けもの歩道』を行くことになりました。森の深部では木々がアーケードのように私たちを覆ってくれたお陰で、体に当たる雨が軽減されたようでした。 森の中には『温身の池』という小さな池がありました。ここは森の湧水が集まって出来た池で希少なモリアオガエルの繁殖地ともなっている場所なのだそうです。 玉川沿いに、けもの歩道を進むと『観音平』という広場に出ました。そこには、訪れた方がゆっくりと出来るようにと木製のベンチとテーブルが備え付けられていました。また、ここには樹齢300年を超える“ミズナラ”の老木があり、威風堂々たる姿は森の番人のような風格さえ漂わせていました。 伊藤会長が樹木に手を触れ「この場所では、実際に樹木に触れたり、草花の香りを嗅いだり、川のせせらぎを聴いたりと、五感全てを使って、森や自然を感じることが出来る」という話をして下さり、その場で深呼吸をしてみたり、耳を澄ましてみたりと、五感で自然を体感してみました。すると、自分が自然の一部となったような何とも言えない清々しい気分になりました。 森を感じた後、更に玉川沿いを進むと川の急流や渦の巻く様子が見られる『清流展望台』と、カモシカが温身平と対岸とを往復することから名付けられた急な沢『カモシカ沢』を通り、メインロードに抜け、一般車両通行止めのゲートまで戻って来たところで、森林セラピー体験は終了しました。 また、森をガイドして頂くことによって癒しの効果を頭でも理解することができ、正しい森林セラピーの知識を得ることが出来ました。これは森林セラピーの効果を高めるうえで大変重要なことだと思いました。 そして、伊藤会長を始めとする温身平を愛する人達の日々の弛まぬ努力によって、この貴重な自然が守られていることを忘れてはいけないと感じました。 是非、皆さんも一度、温身平の森林セラピーで、自然に癒されてみてはいかがでしょうか。 ◎執筆者:伊藤良一(森林セラピーアテンダント ミーティング・会長) 清水晶(置賜文化フォーラム) ◎写真提供:小国町産業振興課 ◎関連ホームページ:小国町役場 印刷用PDFはこちら |
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