我妻榮先生と記念館



1 生い立ちと功績

(1)生い立ち
 

 我妻榮先生は、米沢中学校(現在の米沢興譲館高等学校)の英語の先生であった父「又次郎」と母「つる」の間に5人兄弟の長男として1897年(明治30年)4月1日に米沢市鉄砲屋町(現在の中央3丁目)で生れました。興譲小学校から米沢中学校、第一高等学校(現在の東京大学教養学部)その後、東京帝国大学法学部に進みました。学生時代の学術優等は伝説的であり、米沢中学校では5年間首席、5年次の全科目平均点が96.07点で後輩から米沢中学4秀才の一人に数えられました。一高でも一番を通し、大学1年次は82.6点で岸信介(第56・57代内閣総理大臣)と同点一位で、後輩は目標として二人を名指ししていたということです。先生の勉強の秘訣は「精読する」ことで、一高入試では中学3年からの教科書を完璧に復習されたそうです。
 卒業後は東京帝国大学に奉職され、29歳で法学部教授となり1957年(昭和32年)3月、定年となる60歳まで民法を講義されました。

 先生が小学生の時のエピソードを紹介します。我妻先生は、人に教えるのが好きで、授業中教室の中を、あっちへ行って教えたり、こっちへ行って教えたりとじっとしていないので、よく叱(しか)られて立たされました。品行(行動)だけは乙(良)で、その他の科目は全て甲(優)でした。4年生の時に赤井運次郎先生の受持ちになって、
品行が甲になりました。赤井先生は、お母さんに「新しく教わる所は既に予習でよく判っていて自分が教えたくてチョロチョロ騒ぐのだから、少しも悪意がないので、素直な勉強振りに品行を甲にした」と話され、お母さんは非常に喜ばれたそうです。それから後、赤井先生は我妻先生に分からない子に教えるように指示し、我妻先生は見事にその役を果たされました。
 我妻先生は赤井先生に恩を深く感じ、米沢に帰れば必ず先生の家を訪れ、旅行に出れば旅先からその土地の銘菓(めいか)を送る、湯河原の別荘で自作のミカンができると一番先に先生に届ける、自分の本が完成すれば、その本を差し上げるということを、赤井先生が亡くなるまで続けられました。後に、文化勲章を受けた時は、「先生のお陰です」とさっそく郷里の恩師のもとにかけつけ、勲章を見せ、先生の喜ぶ顔を見て「やっと恩返しができた」と満足げに話されたということです。


(2)功績

 先生は民法の研究を終生の仕事とされました。民法は幅広い分野で、先生は著作の『民法講義』等に日本で初めての民法の体系書としてまとめられました。豊富な判例を適切に取り入れ、法律学の方法論を展開されており、裁判の実務にも深く影響を与えました。ほぼ民法の全領域で我妻民法は基本的な学説です。さらに、戸主(こしゅ…家の統率者)の権限により家族の権利が束縛される側面があった旧民法の「家制度」の廃止と家族法の民主化等を定めた戦後の民法改正では指導的な役割を果たされました。
 東大退官後は、他大学や官庁に勤められず、法務省の特別顧問、法制審議会委員として民法の財産法、身分法はもとより強制執行法や国際私法に至るまで指導的な役割を果たされ、戦後の民主主義を擁護されました。
 最高裁判所長官の指名の候補にのぼった時は、地元米沢では是非にお引き受けいただきたいと願っていました。先生は「民法の研究を続けて行くことが、自分の国に尽くす道です。日本の民法の体系を、国民の遺産として、誰にでも納得できるようにまとめ上げることが終生の念願です。最高裁判所の長官といえば、本当に重要な仕事です。私も国を愛することにかけては、決して人後におちないと信じているけれども、我妻は一民法学者としての仕事を完成するということで国に尽くしたいと考えております」と言われ、傍(そば)のメモ用紙に書かれたのは、(一を守り、二なく、三なし)という言葉でした。まっすぐに一筋の道を歩まれた先生の強い信念を示す言葉として「守一 無二 無三」の色紙は興譲小学校に残されています。
 1964年(昭和39年)には民法学界の発展に尽くされた長年の功績に対し文化勲章を受章されました。


2 故郷への想い

 我妻先生にとって、郷里米沢は決して「遠きに在りて思う所」でなく、「郷里のために力になる」という想いの対象でした。お父上の又次郎先生は、豊かでない経済の中で、実によく学生の面倒を見られ、ご家族が上京されてからは、成人した教え子が、よくお父上を訪ねたそうです。それがお父上の何よりの楽しみでした。先生の心に常にあったのは、先生を育ててくれた米沢の風土、そして、お父上の老後を慰めに行き来した多くの人々、今年はいい果実ができたからと言って送ってくれる多くの先生のお知り合いに対する恩に報いたいという思いでした。
 我妻先生は、昭和41年、多額の私財を投じて「自頼(じらい)奨学財団」を興譲館高校に創り、母校に学ぶ生徒のために奨学資金を贈ることで、有為の秀才に学資を補助されました。財団の名称について微笑ましい話があります。お父上が頭髪に油をつけませんでしたので午後になると頭髪はいつもボウボウと逆立ち、見た目から「自雷也(じらいや)」というあだ名をもらっていました。生徒・保護者からは信頼と尊敬を込めて「自雷さま」と呼ばれました。我妻先生も中学に通うようになった時は「自雷子」と呼ばれました。子供時代の懐かしさを込めて「自頼」という字をあてて記念とされました。また、先生の母校であり母上が勤めていた興譲小学校にピアノと書籍(マガキ文庫)、伯父が校長を務めた荒砥小学校に書籍(我妻文庫)を贈られました。
 米沢から講演などを依頼されると、特に戦後は事情の許される限り出かけられ、その講演対象はほとんど若い人でした。有名な「地方の高校生の責任」の講演は昭和41年に興譲館高校で行われました。「人間には堆肥のような大器晩成型と化学肥料のような型がある。田畑に化学肥料をやりますと、直ぐに利きますが、土質がだんだんと悪くなる。堆肥というのは、直ぐには効かないが、2年・3年とやっている間に土質を改良することさえやりかねない。人間もこの堆肥型でなければならない。田舎に育った者は堆肥でなければその責任を全うできない。息の長い人間になれということです。それが、地方の高等学校の日本に対する、或いは人類社会に対する責任だと思うのです」。
 先生は1973年(昭和48年)10月21日に76歳で亡くなられました。生涯にわたって、郷里の自然と人々を愛し、親を大切にし、恩師を敬う心篤(あつ)い人でした。


3 我妻榮記念館

 我妻榮記念館は、米沢有為会百周年記念事業として、先生の没後19年後の1992年(平成4年)6月21日に開館しました。明治時代に建てられた建物で、先生はこの家で生れ育ちました。2階に北面6畳の勉強部屋があります。1917年(大正6年)5月22日の米沢大火の際に、父の教え子の米沢中学校の生徒達が「先生の家が危ない」と駆けつけてバケツリレーで消火に当たり、この家一軒だけが残りました。ご家族は昭和4年に上京され、その後、家を米沢有為会が購入し、我妻先生を顕彰する記念館として開館しました。館内の先生の胸像は地元出身の彫刻家 桜井祐一の作品です。
 収蔵品は2階建の蔵に保存しています。収蔵品は全て我妻家から贈られたもので自筆原稿など貴重品ばかりです。愛弟子の唄(ばい)孝一先生が資料を整理されて開館となりました。
 1階には先生の著作と自筆原稿、お写真、手紙類、略歴等があります。一階正面の机は、先生が戦後初の東京帝国大学法学部長として大学改革に尽くされた時に使われていた机です。机の上のものは、関係者の間で「巻物」と呼ばれた、紀元前2,000年から昭和33年までの法律と社会制度の関連をまとめた民法歴史年表です。2階には、びっしりと箱に詰まった判例カード、辞令、手帳、講義の生原稿、先生が着用していた3.5kgの義足と服、趣味の釣り道具、囲碁の免状と蓄音機が所狭しと陳列されています。紙の資料は順次電子媒体への保存作業を行っています。
 記念館では、我妻先生の遺徳を顕彰し後世に伝えるための事業を行っています。
ゝ念館は週3日(月・金・日)開館しています。ご連絡をいただければ随時開館します。管理人が館内を説明案内します。小中学生の社会科の校外学習に最適です。
記念館だよりを年一回発行しています。先生の思い出やエピソード、関連行事などを掲載しています。
Mイ譴進顕重業績をあげた中学生に贈られる、米沢児童文化
協会主催の我妻榮児童文化賞を毎年2月に表彰しています。
平成23年で第17回になります。
ぞ・中高生や地域の方を対象に講演会を実施しています。
ソ佝琶等の発行と販売をしています。「我妻榮先生講演集 母
校愛の熱弁」、「自雷子物語」、色紙「守一無二無三」が人気です。
 今後も、地域の誇りである我妻榮先生を多くの人々に知っていただく、事業を続けて行きたいと考えております。


我妻榮記念館

 住   所:〒992-0045 米沢市中央3-4-38
 TEL・FAX:0238-24-2211
 開館時間:金曜日・日曜日…午後1時〜午後4時まで
        月曜日…午前10時〜午後4時まで
 休 館 日:火曜日・水曜日・木曜日・土曜日
       (その他の曜日にご希望の場合は、開館日にご連絡下さい。出来るだけご要望に応じるようにしております。)
 入 館 料:無料
 駐 車 場:有

       



○掲載日 平成23年8月

○執筆者 上村勘二(我妻榮記念館館長)

○写真提供 我妻榮記念館

○参考文献・資料

○取材協力 小林秀一(我妻榮記念館管理人)

○記念館HP 〜我妻榮記念館〜



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